薄野伝説「ブルペン」

どうせ夜通し騒いでいるんだから、みんなで朝野球チームでも作ろっか?なんて話があった。道具を揃える予算も無くすぐに立ち消えたけど…

それでもグローブを持ち寄ってキャッチボールをやっていた。よしゃ~良いのにロビンソン前で…

エース候補は金髪でピアスだらけのパンク野郎だが、高校を中退するまで野球部に居た筋金入り。捕球には自信のあるボクがキャッチャー役。

流石は経験者、なかなかキレ味鋭い球を投げてくる。始めは立って受けていたが「そろそろ座るかい?」なんてしゃがみ込んで、さあ来い!とミットを構えた。振りかぶって投げ込んできた渾身の一球は…

東急インの看板に朝陽が反射して「眩しい!」と思った瞬間、ボクの左目を直撃!

痛いのナンの…次第に瞼は腫れて痣になり、白目も充血。視界は大丈夫だが、殴られたような目になってしまった…

明くる日、客引きのお兄さん達に「誰かにやられたのか?」と次々に聞かれ「いや、キャッチボールしてて…」って恥ずかしながらも答えていた。

教訓…薄野の路上はブルペンではありません。

後日談。

実はその週末、知り合いの結婚式で唄うコトになっており、真っ青な瞼を隠そうとサングラスをして参加した。その日の為に作った新曲の歌詞には赤ペンでコードを書き込んでおいたが、サングラス越しだと赤ペンの字って見えなくなるんだネ。新曲だからコードが解らないと不安だし…仕方なくサングラスは外し、この場でも「いや、キャッチボールで…」と莫迦々々しい経緯を説明するハメになりました。

良い子のみなさん、マネしちゃダメよ!

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薄野伝説「みんな元気かァ?」

夜明けまで唄う。というより、仲間連中と呑んで騒いで…ただの迷惑なヤカラだった。

夜遅くなってから旧ロビンソン前に集合するのが何と無く日課になり、ギターを弾いたり、酒を呑んだり、無駄話に花を咲かせたりしたモンだ。

朝になっても唄っていたら、そのまま後ろのシャッターが開いたコトもあった。「アレ?10時になっちゃったゾ?」なんて言いながら、今度は大通公園に場所を移す。大通では眠くなれば芝生かベンチで眠り、起きては酒を呑んだりギターを弾いて…夜になったら薄野へ向かう。そんな生活。

その頃はみんな無宿の旅人だったり、家出みたいな形で帰れない連中が多かった。歩いて帰れる場所があるのはボクぐらいなモノで、夕方になれば風呂と仮眠の為に帰っていた。何人か面倒を見たコトもある。

しかし若いというか、今から考えたら恥ずかしい行為である。よくも逮捕者が出なかった…ただし、その頃だけネ…

後になって自転車泥棒や万引きで捕まっちゃう人が現れ始め、ちゃんとした住所を持つボクが身元引受人として警察へ出向くケースが増えてしまった。そのうち軽犯罪じゃ済まなくなるのでは?若干不安になってきたので、あんまり深入りしないようにした。

そのうち無宿だった連中も、仕事を見付けて住家を構えたり、旅人はまた旅に出たりして、それぞれの道を歩き始めた。

良い想い出と悪い想い出が交錯しつつ、でも何だか懐かしい日々である。

みんな元気かなァ…

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薄野伝説「冬が来る前に」

真冬だって、仲間達とこぞって唄いに出た。寒さをしのぐのに知恵を絞り様々な対策を試してはみたが、結局一番使えたのは「一曲終わるたびにカイロなどで手指を温める」という初歩的なモノだった。

楽器自体が氷点下の想定で作られていない為、とにかく支障をきたすコトも多い。弦はよく切れるし、チューニングもすぐ狂っちゃう。まあボクの場合は季節柄に関係無く…ですが。

しかし冷え込みの厳しい日は湿度もグンッと落ちるので、アコースティックギターの鳴りが凄く冴え、良い音が出るのだ。これで指がマトモなら最高だけど、何しろ寒風吹き荒ぶ野外である。かじかんでなかなか上手く弾けなかったりするのョ。う~ん…もう、まどろっこしいったらありゃしない。

猛吹雪の中、吹きっ晒しで唄ったコトもある。他に唄う人間が居ないので独壇場にはなるが、同時に歩いている人間も少ないワケで…それでもモノ珍しさで寄ってくる人もいて、折角頂いた千円札も突風に持っていかれたり、降り積もった雪で小銭が全てひと塊になったり…

とにかく何が起きるか解らないのが真冬の路上である。通常では考えられないアクシデントが次々と待ち構えている。ハーモニカを吹いていたら、金属部と唇がシバレてくっついたり…無理矢理穴をズラそうとして唇を3針縫うぐらい裂いちゃったヤツが居た。ボクは寒さで指先が麻痺し、気付いたら右の人差し指の爪が半分無かった、なんてコトもあった。当然、ギターは血塗れ、足元はイチゴのかき氷状態…

嗚呼、嫌だ厭だ。よ~し、今年は寒くなる前にちゃんとした仕事見付けるぞ!

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薄野伝説「破壊王」

ギターの扱いが目茶苦茶なので、よくギターを壊す。モーリスの限定生産品、アリアのフルアコタイプなど、それなりに良い品物ばかり買っては、壊してしまう。

一番惜しいのはギブソンだよなァ…貰いモノだけど1960年代製のビンテージである。ブリッジがブッ飛んだだけなので、新しく付け直せば使える。いつか直すゾ…と保管はしているが、復活はまだ未定。

一番酷かったのはモーリスの中古品。酔っ払って叩き付け、お次にカカト落としでまっぷたつ、あとはストンピング攻撃の雨あられ…木っ端微塵になった。

この「モーリス木っ端事件」が起きたのは、前述「第二の男」があった次の日。自称スカウト男が「一番上手い」と言い放った二人組の目の前で…ただの嫌がらせ、腹いせ、脅しの類である。

ボクの場合、ピックで表面の塗装が削れて地肌があらわになるのがお決まり。でも5年以上愛用しているタカミネは余程頑丈らしく、なかなか地肌が見えてこない。何度か落としたりぶつけたりしたけど大きな怪我もない。かなり丈夫である。

逆にヤマハの古いヤツは買ったその日に傷だらけになり、以来どんどん削れてゆき、見た目はもう完全なオンボロに成り果てた。50年モノなので塗装自体が脆く、爪で引っ掻くだけで削れちゃう。それで1ヶ月使っただけで傷だらけになったのだから、今年中には穴が開くんでないかい?

しかし実は最近、ギターの前に右手が壊れそうになっている。だからあまり激しく弾けなくなっちゃったのョ。歳なんですかねェ、ボクも…

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薄野伝説「淋しい味」

かつては何かにつけて呑んでいた。路上で唄う時は一晩で焼酎の四合瓶を飲み干すのが日課であり、さらに家に帰って更に何杯か…目覚めてまた一杯と、こんな具合で。とにかく酔えれば良かったので、なるべく安い焼酎のペットボトルを購入、四合瓶に移し替えて持ち歩いた。

昔住んでいた近所の酒屋で4リットル入り800円ぐらいの超格安な焼酎を見付けた。度数も20%である。そりゃあ喜んで買ったものサ!

味はチョイと粉っぽい…でも安いし、酔えれば良いのだ。いつもの調子でグイグイ呑んでいたが、何となく酔い方も変な感じで、寝起きの顔もむくみ出したのだが、ちょっと呑み過ぎたかナ?程度に割り切っていた。

格安焼酎も無くなりかけたある日、ふとラベルを眺めていた。焼酎には甲類、乙類など製造の仕方で分類がある。コイツは何モノかなァ、と目を懲らすと、品名欄に見慣れない漢字が…

「味」に「淋しい」?いや、「淋」ではない…「醂」だ!

そう、てっきり焼酎だと思い込み呑んでいたソイツは「みりん」だったのです!

透明なみりん…この話をすると誰も信じてくれない。ただ、英祐一氏(The武田組、ボクと同い年)だけが「確かにあった」と言ってくれる。調べるとやはり「飲用みりん」は8年ほど前まで存在しており、近年は酒税法の改正で割安感が無くなってしまい、あまり作られていないらしい。

酒を一切断った今にしてみれば、なかなか懐かしくも「淋しい」思い出です。

カテゴリー: 未分類 — hayato 10:24 AM  コメント (0)

薄野伝説「ムシャクシャ呪術」

もしや自分には「呪い」の才能があるのでは?…そう勘違いしそうになる出来事が幾度かあった。

例えば、あるビルの前。

客の見送りに出て来たお店の女性従業員がボソっと「面白くない…」と言い放ちビルへ戻った。もしかすると単なる独り言でボクに対してではなかったかもしれないが、何かとムシャクシャしていた時期だったので自分の事だとつい思い込んでしまい、ムシャクシャついでにギターを叩いて唄っていたら、バキッと壊れてしまった…

明くる日、またその場所で唄おうかと思い行ってみると…ビルの周囲を消防車が囲んでいる。ボヤ程度だったが、女性が働くお店と同じフロアからの出火したらしい…

別の日。

人が唄っているすぐ脇で立ち小便を始めた男性が居た。やはりムシャクシャしたので「何やってんだ!」と怒鳴ると、アチラも「何だコノヤロー!」と来たモンだからさ~大変…男性の仲間が止めに入り謝ったのでその場は収まった。でも不愉快さは収まらず…

彼らは特別演習で来ていた本州の自衛隊員だったのだが、次の日、ニュースを知りビックリ!演習中に誤って付近の民間施設に実弾を撃ち込んでしまい急遽中止、全国から集まっていた部隊は一斉に引き返す事態となっていたのだ。あの隊員が立ちションさえしなけりゃ、もっと夜の薄野を堪能出来たかもしれないのにネ…ざまァ見やがれッ!

いいですか皆さん、ボクがムシャクシャしている時は近付かない方が無難ですョ…火傷するゼ!?

カテゴリー: 未分類 — hayato 10:13 AM  コメント (0)

薄野伝説「第二の男」

かつて「ソ○ー公認・薄野で二番目に上手いストリートミュージシャン」と、シャレで自称していたコトがある。

ある日、当時の路上仲間のひとりが必死にボクを探しおり、見付けていきなり「会わせたい人がいるから来て!」と呼び出され、何故か狸小路へ連れていかれた。

そこにいたのは、スーツ姿にメガネの男性…見るからにして胡散臭い外見を想像して下さい。

仲間「連れて来ました」
男「じゃあ、ちょっとここで唄ってみて」
ボク「えっ?」

いまいち状況の飲み込めないボクに仲間はそっと耳打ち…

(東京からスカウトに来てる人なんだって…)

ソイツは半ば興奮して信じているみたいだけど、ど~も胡散臭いんだよなァ…名前を尋ねても「教えられない」、名刺をくれと言っても「渡せない」…アナタは迷子の小猫ちゃん?ますます怪しい。疑念は深まる…

メモを取っているノートの表紙には、デカデカと手書きで「ソ○ーミュージック何トカ」と書かれている…まさか、その太いペン字を見せつけて信じろって?それを見た瞬間からボクの中ではもうニセモノと決め付けていた。

仕方なく一曲唄い、そこで言われた言葉が「薄野で二番目に上手い」ですと…

とにかく無性に腹が立った。二番目がど~とかではなく、これ以上スカウトを名乗って歩かれては目障りだし、何かやましい目的があるのなら尚更マズい。よし、ここは一丁ボクがやっつけるしか無いな…

「本当にスカウト?ニセモノでろ?どっちにしてもアンタみたいな人にウロウロされちゃオレらも迷惑なんだョ!」

仲間に押さえられ、男は何やら言い残して去った。以来、ソイツは現れない。

あの頃は間違いなくタンカ切らせりゃ「薄野で一番」だった。う~ん、若気の至りってヤツですかネ…

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薄野伝説「世界的」

トンボの「リー・オスカー」というハーモニカを愛用している。世界的ハーモニカプレーヤー、リー・オスカー氏が開発に携わったモノ。ボクがこだわるには理由がある。

冬場はたまに札幌駅南口で唄っていた。冷え込まないお昼のうちに稼いでおこう、という魂胆。

ある日、外国人の男性と一緒にいた日本人女性が声をかけて来た。

「彼がハーモニカでセッションしたいと言うんですがいいですか?」

「いいですよ」と答えると、男性はケースを取り出した。中には各キーの「リー・オスカー」がビッシリ詰められている。

簡単なブルースっぽい調子でギターを弾くと、男性はそれに合わせハーモニカを吹き出した。う…上手い…10穴ではないような多彩な音色を奏でるのだ。

セッションを終えて男性と笑顔で握手。はて、どこかで見覚えのある顔なんだが…

数日後、何気なく「リー・オスカー」を購入。同封されている説明書の顔写真を見て、思わずビックリした…

「まさかあの時の人って…えっ?」

確固たる証拠は無い。ただ最近、プロのハーモニカ奏者の方にその話をしたら「多分本人じゃないかな?」と言っていた。来札していた時期も一致するらしいし…ともかくボクの中では「世界的プレーヤー、リー・オスカーと一緒にセッションした」という事になっている。あくまで確証は乏しいままだけど…以来、キーによってバラバラだったハーモニカの銘柄を「リー・オスカー」に統一させたのである。

うん、あれはオスカー氏に間違い無い!きっと…恐らく…多分…だったら良いのにナ?

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薄野伝説「全国的」

12年もこんなコト続けていると、それなりにメディアに取り上げられた経験も幾度かある。一番の自慢は全国版ギター専門誌かな?リットーミュージック社発行『アコースティックギターマガジン vol.14(2002年秋号)』。表紙と巻頭インタビューはあのジェイムス・テイラーだぞッ!

ボクは白黒ページの一隅、札幌を代表するストリートギタリストとして登場している。現在東京を拠点とする桑田健志さん、今も全国を唄い歩く瀬戸口正樹さん、近年活動しているという話を聞かなくなったるお嬢…そしてこのボクの4人。

実は話が来た時には路上活動にひと区切りつけており、取材が決まってから慌ててまた街へ繰り出して面目を保った。だって、まだ続けている仲間が多数いるのに「やめちゃったはずのアイツが何で?」とか思われたら嫌でしょ?なので週末だけでも唄うようにしたのだ。もしや、ヤラセ?

莫迦丸出しで絶唱しているような写真が掲載されているが、これも実は取材直前に気張り過ぎて喉を潰してしまい、声が全く出ない状態で唄っているフリをして撮影。これもヤラセか?手にしているギブソンも壊しちゃったし…

何だか、あんまりいい想い出も無いなァ…

フリーライターの青柳さん、全国を取材した集大成として『路上音楽の本』なる書籍をマガジンファイブ社より出版した。泉谷しげる、友部正人、南正人のインタビューもあり、「札幌篇」にはボクもちゃっかり登場。

まあ…別にこれって恩恵も無く、唯一、呑み屋で出会ったおじさんに「出てたよネ?」と言われたぐらいで…ちょこっと露出したからって浮かれちゃならん!地道に行きませう。

カテゴリー: 未分類 — hayato 10:14 AM  コメント (0)

薄野伝説「目撃者④」

また同じ話をするのか…億劫さを覚えつつ検事室に入ると、検事さんは「疲れたでしょ?調書は貰ったし、あとは起訴するだけだから」と、資料を手渡されて相違無いかの確認だけ。意外にあっさりとコトは済んだ。

「この人が容疑者なんだけど、間違いない?」

出された写真には、もうアザだらけでボッコボコに腫れた顔が…

「…う~ん、間違いないとは思いますが…」見覚えどころではない、その見事なまでのヤラレっぷりに動揺してこう答えるのが精一杯だった…

「お疲れ様、ハイじゃあコレね」と帰り際に封筒を手渡された。封筒には『参考人旅費』と記され、3000円が入っていた。

些細な喧嘩?が発端でも地検レベルの事件になればお金が貰えるのだ。

そしてその夜、また同じ場所で唄っていると、前夜の争いの際に泡盛のビンを奪い取ろうとした人が通り掛かった。

「警察に何か言った?」

地検まで行った、とか言うのはマズイな…即座に察知して「ちょっと聞かれたんで答えただけですョ」と言うと、「悪かったナ、迷惑かけちゃって。これで新しい酒でも買ってネ」と、2000円をくれた。

地検から3000円、事件当事者から2000円…この日は唄わずして5000円の収入である。更に捜査費用で食事と煙草1カートンにもありつけた。

それ以来、大きめの事件が起きやしないかと目を懲らしながら歩いているのだが…そうそう大事件なんてのは転がっちゃいないモンである。つくづく、日本って本当に平和だなァ…と感じます。

おしまい。

カテゴリー: 未分類 — hayato 10:07 AM  コメント (0)